商標裁判例
指定商品を「アプリケーションソフトウェア、コンピュータ周辺機器,電子応用機械器具及びその部品等」とし「Robot Shop」の文字を標準文字で表してなる商標の侵害訴訟において、包袋禁反言が認定された事例
原告:ヴイストン株式会社 v. 被告:ロボショップ株式会社
商標権侵害訴訟事件
背景
被告は、本部がカナダのケベック州ミラベルにあり、ロボット技術を専門とした幅広い製品とサービスを提供している企業である。ロボットの制作部品やロボットキットを販売したり、ロボットのプラットフォーム用にロボットアプリを、インターネットで販売している。
[被告標章]
原告は、ロボット関連製品の開発・製造・販売、ロボット関連イベントの企画・実施、等を行っている企業である。本件は、原告が、被告による上記標章を、ロボット製作部品等の被告商品に関する広告等の情報に付して、インターネット上のホームページ、パンフレット及び看板等の広告を提供する使用行為の差し止めと、損害賠償を請求することを求めて裁判所に出訴した事案である。
[本件標章]
争点と判決
知的財産高等裁判所は、被告販売商品のうちロボットと同一又は類似するものに対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則(民法1条2項)により許されないと判断した。一方で、侵害商品目録に記載のロボット製作部品等に対して、原告の主張を認め、別紙記載の商品リストに上記被告標章を付して広告等を提供する行為(使用行為)の差し止めと損害賠償を認めた。
裁判所の判断
本件商標は、出願時において、「第7類 工業用ロボット、娯楽用ロボット、研究用ロボット、その他ロボット」、「第28類 ロボットおもちゃ並びにその部品」、「第35類 工業用ロボットの小売」等を指定商品及び指定役務としていた。
これに対し、特許庁は、本件商標は、「ロボットの小売店」程の意味合いを容易に認識させるものであるところ、ロボットの販売及び修理等を取り扱う業界において、「Robot Shоp」及び「ロボットショップ」の文字が、ロボットを取扱商品とする小売店であることを示す語として一般的に使用されている実情があると指摘し、3条1項3号に該当するとの拒絶理由を指摘している。
出願人は、上記の3条1項3号の拒絶理由通知を受け、「第7類 工業用ロボット、娯楽用ロボット、研究用ロボット、その他ロボット」、「第28類 ロボットおもちゃ並びにその部品」、「第35類 工業用ロボットの小売」等の指定商品を削除している。一方で、「第9類 コンピュータハードウェア、電子応用機械器具及びその部品」等の指定商品に関しては、登録の対象となった。
裁判所は、上記の商標登録出願に係る審査の一連の流れから、原告が、被告販売商品のうちロボットと同一又は類似するものに対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則(民法1条2項)により許されないと判断した。裁判所は、「ロボットと同一又は類似するもの」に関し、広辞苑等を引用してロボットの定義づけとして「所定の目的のために自律性をもって動作等をする機械又は装置は、少なくともロボットに類似するものであるといえる。」と示した。
その上で、「ロボット類似品を除くその余の被告商品は、いずれもロボット製作に使用する部品や汎用的な部品、製作機器等であって、ロボットに類似するとはいえない。」とした。裁判所は、原告が主張した被告製品のうち「ロボットと同一又は類似するもの」とは言えない指定商品について、商標の使用の差し止めと損害賠償を認めている。具体的には、前述のロボット製作部品として、被告がインターネットを通じて販売していた、ロボットセンサ、モータ、コントローラ等の商品が侵害の対象とされた。
被告は、ロボット関連商品を販売するオンラインショップに「RobotS hоp」と表示することは、商標法26条1項2号所定の「当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称」(Robot、ロボット)及び「販売地」(Shо p、店舗)を普通に用いられる方法で表示することに該当すると主張した。
これに対し、裁判所は、被告標章は、被告サイト及び被告楽天サイトにおいては、各ページのタイトル部分に表示され、被告アマゾンサイトにおいては、販売業者の情報が記載されたページの上部に表示されていることが認められる。このような、標章の表示方法、デザインが施されていることに照らすと、「ロボット」及び「販売地(店舗)」の意味に理解するのではなく、商品の出所を表示していると理解するものと認められるとして、被告の主張を退けた。
まとめ
普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみの場合、審査段階においては、3条1項1号で拒絶される。また、過誤登録があった場合においても、26条1項2号により商標権の効力が及ばないとされている。しかしながら、3条1項3号では、普通名称であっても、用いられる方法が普通ではない場合、登録される可能性がある。その場合、26条1項2号も適用範囲外となる。
今回の事例では、ロボットに関しては、上記の規定に則った形で、権利侵害の対象外とされている。しかしながら、ロボット製作部品等については、差止及び損害賠償が認められている。
総論として、日本への進出において、仮に普通名称と思われる場合においても、自己の利用する指定商品の範囲の全体において、登録商標の調査を行うことが推奨される。
今回の事案では、被告標章がブランドのロゴとして利用されていたので、影響が大きかったと考える。日本への進出をする際に、少なくとも、企業名またはブランド名称やブランドロゴについては、商標登録出願をすることが必要であろう。被告標章は、歯車を模した飾り文字を標章の一部に使用するなど、デザインが施されていたことから、出願していれば、登録される可能性もあったと考える。