特許裁判例

侵害訴訟において均等論が認められた事例

(控訴人X)Future Technology株式会社 v.s (被控訴人Y)フィリップ・モリス・ジャパン合同会社1

損害賠請求控訴事件

背景
 控訴人Xは、発明の名称を「電子タバコ用充填物及び電子タバコカートリッジ」とする本件特許権(特許第6815560号)の特許権者である。本特許権は、電子タバコカートリッジを使用する際、切込み部が気流方向を誘導する空気の均一な通路となり、吸い心地を安定させる技術に関するものである。控訴人Xは、電子タバコを製造、販売している日本の株式会社であり、被控訴人Yは、電子タバコを製造・販売している外国法人が日本に設立した子会社である。

 本件訴訟は、原審である令和5年(ワ)第70407号損害賠償請求事件において、「被告製品は、本件特許の請求項1に係る発明(本件特許発明)の構成要件Bを充足せず、本件特許発明の技術的範囲に属しない」として、控訴人Xの請求が棄却されたので、これを不服とする控訴人Xが控訴を提起した事案である。

結論
 原審及び控訴審の両方において、原告(控訴人X)の請求は棄却された。具体的に、タバコシートに平行するリッジや谷に沿ってその表面が裂けたり割れたりすることにより形成された裂け目ないし割れ目が、構成要件Bの「切込み」に当たるかどうかが争われ、裂け目ないし割れ目は「切込み」に当たらないと判断された。


裁判所の判断 
 原審において、裁判所は、単語の辞書的意義を参照し、「切込み」とは、刃物を用いて人為的・能動的に「切り目」ないし「切れ目」が形成された構造ないし状態を意味するものと理解されるとしている。裁判所は、刃物でシート状部材の表面を切ることにより形成された切れ目と、それ以外の方法によりシート状部材の表面が裂けたり割れたりして形成された「裂け目ないし割れ目」とでは、断裂部の形状や構造が異なると指摘している。裁判所は、「切込み」と「裂け目ないし割れ目」の相違点として、裂け目ないし割れ目の場合、刃物による切れ目の場合に比して、断裂部の形状や構造は不規則なものとならざるを得ないことを指摘している。また、本件明細書には、「切込み」に相当する断裂部の形状や構造が不規則なものであっても上記の本件特許発明の効果が得られるとする具体的な作用機序に関する明示的な記載はなく、また、これを示唆する記載も見当たらない、としている。

 結論として、裁判所は、被控訴人Yの製品のタバコ基材には、タバコシートの製造過程で、タバコシートの平行するリッジや谷に沿ってその表面が裂けたり割れたりすることにより形成された裂け目ないし割れ目が存するものの、これらは刃物で切ることにより形成されたものではない。そうである以上、これらは、本件特許発明における「切込み」には当たらず、刃物で表面を切ることにより形成された切れ目の存在は認められないと判断した。

 控訴審では、「切込み」については、「切り込む」、「切り目を入れる」、「切る」という能動的な行為が想定され、さらに、それが刃物によることを明示する例が複数存在する点を指摘している。そして、各種辞書の記載から、「切込み」とは、刃物を用いて人為的・能動的に「切り目」ないし「切れ目」が形成された構造ないし状態を意味するとした原判決の説示は、相当なものであると判断し、本件控訴を棄却した。

まとめ
 本件では、「切込み」という用語に対し、「切り込む」、「切り目を入れる」、「切る」という能動的な行為が想定される点が指摘され、最終的に構成要件Bを充足しない根拠となっている。すなわち、能動的な表現を含む用語(名称)を使用した場合に、限定的な解釈を生む可能性がある。このため、辞書的な意味を把握しつつ、使用する用語を選択する必要がある。

 裁判所では、「「切込み」に相当する断裂部の形状や構造が不規則なものであっても上記の本件特許発明の効果が得られるとする具体的な作用機序に関する明示的な記載がない」とした。この点に関し、本件特許の作用効果では「切込み部が気流方向を誘導する空気の均一な通路となる」との記載がある。気流方向の誘導性に着目すると、「切込み」が「裂け目や割れ目」でも気流方向の誘導はされることは十分に考えられるので、少し厳しい判断のようにも見える。一方で、「裂け目や割れ目」は、「均一な通路」とまでは一義的に言えず、裁判所の判断は妥当と感じる。特許請求の範囲の記載はもちろんのこと、作用効果の記載が、発明の技術的範囲を不要に狭く限定していないかの留意が必要であろう。



[1] 令和6年(ネ)第10074号、令和7年4月10日判決、知的財産高等裁判所

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