特許裁判例

進歩性が認められないという審決を、取り消した事例

ヤマハ発動機株式会社 v. 特許庁長官

審決取消請求事件

背景
 原告は、名称を「ビークル」とする発明につき特許出願をしたところ、引用文献に記載された発明(以下「引用発明」という)をもとに、当業者が容易に想到し得たものであるという拒絶理由通知を受けた。原告は、拒絶理由通知に対して手続補正を行うとともに意見書を提出したが、拒絶理由が維持され、拒絶査定を受けた。原告は、拒絶査定に対し不服の審判(以下「本件審判」という)を請求したが、特許庁は、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という)をした。本件は、本件審決に対する審決取消訴訟事件(以下「本件訴訟」という)である。

結論
 知的財産高等裁判所は、本件審決は、誤りであると判断し、原告の主張する取消事由には理由があることを認めた。

裁判所の判断 
 本件審判の請求時に補正された請求項1の発明(以下「本件補正発明」という)は、以下のとおりである。なお、下線部分は補正された部分である。

「ビークルであって、
 前記ビークルは、リーン姿勢で旋回可能に構成された車両又はドローンであり、
 前記ビークルは、
 回転するクランク軸を有し、燃焼によって生じるパワーを前記クランク軸のトルク及び回転速度として出力するエンジンと、
 前記クランク軸と連動するよう設けられ前記エンジンに駆動され発電する発電用電動機と、
 前記発電用電動機で発電された電力をエネルギーとして貯蔵するエネルギー貯蔵装置と、
 前記発電用電動機とは異なる、前記エネルギー貯蔵装置及び/又は前記発電用電動機からの電力の供給を受けてパワーを出力する、推進用電動機と、
 前記推進用電動機から出力されたパワーによって駆動される推進器と、
 前記エンジンと、前記推進用電動機と、前記発電用電動機とを制御する制御装置であって、加速指示に応じて前記推進用電動機に供給される電力を増大するよう前記エンジン及び前記発電用電動機を制御し、前記推進器が前記推進用電動機から出力されたパワーのみによって駆動される場合、前記エネルギー貯蔵装置のエネルギー貯蔵量に関わらずに、前記加速指示を契機として、前記エネルギー貯蔵装置及び/又は前記発電用電動機から供給される電力で駆動される前記推進用電動機により前記加速指示に応じた目標パワーを出力するように、前記加速指示よりも前に、少なくとも前記発電用電動機で発電された電力の供給の受け及び前記推進用電動機に対し電力の供給を行なう前記エネルギー貯蔵装置のエネルギー貯蔵量に応じて前記発電用電動機の負荷トルクを減少することによりエンジンの回転速度を増速する制御装置と、を備える。」

 本件審決では、本件補正発明と引用発明との相違点を、「前記ビークルは、リーン姿勢で旋回可能に構成された車両又はドローン」にあると認定した。しかし、本件審決では、引用発明が解決する課題は、「バッテリから供給できる電力が小さくなること」であり、前記相違点に係る「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両又はドローン」において一般的に存在する課題であるとの理由から、本件補正発明は、当業者が本件補正発明を容易に想到し得たものと判断した。

 他方、知的財産高等裁判所は、本件審決とは異なり、引用発明が解決する課題は、本件補正発明において一般的に存在する課題ではない、と判断した。その結果、知的財産高等裁判所は、引用発明に相違点に係る構成を採用するという動機付けがなく、それゆえ本件審決には誤りがあると判断した。
 知的財産高等裁判所が、課題の共通性について、本件審決とは異なる判断をした理由は、引用発明が解決する課題が「バッテリの温度が低いときに、バッテリから供給できる電力が小さくなること」であること、及び本件補正発明において「バッテリから供給できる電力が小さくなる」という課題が一般的に存在すると認められないことによる。


まとめ
 本件審決では、引用発明が解決する課題の認定において、「バッテリの温度が低いときに」という前提が捨象されていたことが、知的財産高等裁判所により誤りと判断された原因の1つである。さらにその原因は、突き詰めていくと、知的財産高等裁判所は、「電力」の意味を、広辞苑の記載に基づき「電流による単位時間当たりの仕事」であると認定している一方、本件審決では「電力」の意味を「単位時間当たりの」という部分を無視して曖昧に捉えて判断したという点にある。原告が、拒絶理由に対する意見書において、「電力」の意味を知的財産高等裁判所がしたのと同様に明確にして、進歩性を主張していれば、拒絶理由が解消していた可能性はある。

 また、本件訴訟において、被告は、本件補正発明が解決する課題について、「原告が主張する課題は、本願明細書等に記載も示唆もされていない」こと、「意見書及び審判請求書にも、記載されていない」ことを主張している。
 このことから、もし、原告が、本件訴訟で主張した本件補正発明が解決する課題を、意見書又は審判請求書に記載していれば、特許庁の判断は異なっていた可能性はある。出願する発明が解決する課題は、明細書に十分に記載しておくべきであるが、どのような文献が引用されて拒絶理由が通知されるかは出願時にはわからないので、拒絶理由に応答する時点で、出願した発明と、引用発明との間の課題の相違点について十分に検討し、その相違点を意見書等で説明することが重要であるといえる。



[1] 令和4年 (ケ)第10126号、令和5年8月1日判決、知的財産高等裁判所

 

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