ユーラシア特許制度の概要

ユーラシア特許制度の概要

締約国

1995年8月12日に発効したユーラシア特許条約(Eurasian Patent Convention)の現在の締約国は、ロシア連邦、アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン及びトルクメニスタンの8か国である。2012年4月26日にモルドバが離脱した。
ユーラシア特許庁(Eurasian Patent Office;EAPO)への1つの特許出願により、8締約国の特許を一括取得できる(条約15条(11))。

発明の保護対象

次のものは、それ自体では発明とみなされない(規則3(3))。
・発見
・科学の理論及び数学的方法
・情報の提示
・経済的組織化及び経営の方法
・記号、計画及び規則
・精神的な行為を行う方法
・アルゴリズム及びコンピュータ・プログラム
・集積回路の回路配置
・構造物及び建築物並びに土地開発の企画及び計画
・工業製品の外見のみに関する美的要件を満たすことを目的とした解決方法 

次のものは、不特許事由とされる(規則3(4))。
・植物の品種及び動物の品種
・集積回路の回路配置
・公の秩序又は善良の風俗を保護する目的で、又は環境に重大な損害が生じることを防止するために、商業利用を阻止することが不可欠な発明

 

優先権主張

パリ条約に基づく優先権主張が可能である(条約8条,規則36)。
台湾などの世界貿易機関(World Trade Organization:WTO)の加盟国における出願を基礎とすることもできる(規則6(1))。

先願主義

2以上の発明者が互いに独立して同一の発明をした場合は、ユーラシア特許を受ける権利は、先の出願日を有するユーラシア出願をした発明者又はその承継人に属する(規則9(3))。
同日出願の場合は、両出願人間で合意が成立することを条件として、1のユーラシア特許のみを付与される。合意が成立しない場合は、ユーラシア特許は付与されない(規則47(4))。

出願言語

全ての言語による出願が可能である。
ただし、ロシア語以外で出願を行った場合は、出願後2か月(追加手数料の納付を条件として更に2か月延長可能)以内に、ロシア語の翻訳文を提出しなければならない(規則21の1(6))。

出願に関する料金

ユーラシア特許機構(Eurasian Patent Organization;EAPO)の手数料に関する法律(2014年11月改定:単位=ロシア・ルーブル) 

出願料: 出願、調査、公開、及び他の手続のための単一手続手数料 25,500
     5個を超えるクレームの各クレームにつき 3,200
*PCTルートの場合で、ロシア特許庁以外の国際調査機関(例えばJPO)が国際調査報告を作成したときは、出願料金が25%減額される。

出願審査請求料: 1つの発明の場合の基本料金  25,500
         2番目の発明についての追加料金  19,000
         3番目以下の各発明についての追加料金  9,500

拒絶査定不服審判請求料:  17,500
ユーラシア特許の付与手数料: 16,000
ユーラシア特許の維持年金: 特許権者は、特許を維持したい締約国ごとに定められた年金額の合計を、ユーラシア特許庁へ納付する(条約17条)。

*料金は最新ではない可能性があることにご留意ください。

 

出願公開制度

パリルートの場合、優先日から18か月経過後に、調査報告書とともに出願公開される。出願人の請求による早期公開制度もあり(条約15条(4),規則44,45)。
出願公開日から特許公告日までの間は、仮保護の権利が与えられる(規則10)。

出願審査請求制度

出願人は、調査報告書の公開日から6か月以内に出願審査請求をする(条約15条(5))。
出審査請求期間は、追加手数料の納付を条件として2か月延長可能である(規則46(1))。
所定の期間内に請求がなかったときは、出願がみなし取り下げとなる(規則46(2))。

早期審査制度

2013年2月15日に運用が開始した日本国特許庁とユーラシア特許庁との間の特許審査ハイウェイを利用することができる。
この運用は、2018年2月14日まで延長された。

新規性の判断

発明は、先行技術によって予測することができない場合は、新規であるとみなす。先行技術は、優先日の前に世界において入手可能なすべての種類の情報からなる(規則3(1))。
ユーラシア出願の当初提出した内容は、後に公開されたことを条件として、その公開日よりも前に出願された後願に対して、先行技術の地位を有する(規則3(1))。

新規性喪失の例外規定

発明の特許性に影響を与える可能性がある情報の開示は、その情報が優先日の前6か月の期間より早くない時期に発明者若しくは出願人、又はこれらの者から当該情報を得た者により公衆の利用に供された場合は、特許性に影響を与えない(規則3(2))。

明細書/クレームの記載要件

明細書は、当該技術の熟練者が当該発明を実施するのに十分な明瞭かつ完全な態様で、当該発明を開示しなければならない(規則21の1(3),規則23)。
クレームは、明瞭かつ簡潔でなければならず、かつ、当該明細書に基づくものでなければならない(規則21の1(4),規則24)。

発明の単一性の要件

ユーラシア出願は、1の発明のみに関連するか、又は単一の発明概念を形成するように結び付いている一群の発明に関連するものでなければならない。一群の発明が同一又は対応する特別の技術的特徴により技術的に関連しているとき、単一性要件を満たす。「技術的特徴」とは、クレームされた各発明による先行技術に対する寄与を決定する技術的要素をいう(規則4)。
特許調査の間に単一性要件が満たされていないことが判明した場合、出願人は、その旨の通知の日から3か月以内に調査対象発明を選択するよう求められる(規則42(3))。
ユーラシア出願には,単一の包括的なクレームによっては容易に包含することができない同一カテゴリーの発明の内容に関する2以上の独立クレームを含めることができる(規則25(2))。

補正の機会と制限

審査手続全体を通じて、ユーラシア特許の公開の技術的準備が完了するまで、出願人は、ユーラシア出願の要素を追加し、特定し、又は訂正する権利を有する。ただし、出願人が自発的に行ういかなる補正又は訂正も、時期に応じた所定の追加手数料の納付を必要とする(規則49(2))。
白な誤りの補正を別として、明細書及びクレーム並びに図面に係る追加、特定又は訂正は、これらが出願資料に含まれ、かつ、発明の内容を変更するものでない場合にのみ許容される(規則49(3))。

分割出願

出願人が最初に提出したユーラシア出願が他の発明を含む場合は、出願人は、分割ユーラシア出願をする権利を有する(規則49(6))。
分割ユーラシア出願のクレームは、原ユーラシア出願において法的保護を請求した発明と同一の発明、特に単一性要件の違反を解消するために減縮した後の発明を含んではならない(規則49(6))。
最初の出願が取り下げられておらず、かつ、最初の出願に係るユーラシア特許の登録日の前、又はユーラシア特許を付与しない決定が確定する前に限り、分割出願を提出することができる(規則49(6))。

変更出願

欧州特許公報における欧州特許付与の告示の公告から9月以内に、何人も、EPOにその特許に対する異議を申し立てることができる(99条)。

拒絶査定不服審判制度

出願人は、ユーラシア特許の付与拒絶通知を受領した日から3か月以内に、合議体による審判をユーラシア特許庁に請求することができる(条約15条(8))。
出願人は、審判請求に関する決定の送付日から4か月以内に、ユーラシア特許庁長官による最終の追加審判を請求することができる(規則48(5))。

特許料の納付時期

出願人は、ユーラシア特許庁が付与可能の通知を送付した日から4か月以内に特許付与手数料を納付する。この期間は、追加手数料の納付を条件として2か月延長可能である(規則51(1))。
この時点でロシア語以外の言語によるユーラシア特許の翻訳文が要求されることはない。

特許権の存続期間

ユーラシア出願の出願日から20年(条約11条)。
ユーラシア特許の存続期間は、国内特許の存続期間の延長を法令で規定している締約国について、延長することができる(規則16(5))。

異議申立制度

何人も、ユーラシア特許の付与公告の日から6か月以内に、ユーラシア特許庁に異議申立を行うことができる(規則53(1))。
取り消し決定の場合には、そのユーラシア特許は、すべての締約国において遡及的に存在しなかったものとみなす(規則53(4))。
特許権者が、ユーラシア特許庁により提示されたクレームの減縮に同意し、かつ、所定の公告手数料を納付した場合、補正されたユーラシア特許の維持が決定される(規則53(9))。
利害関係を有する当事者は、異議決定に対してその決定の送付の日から4か月以内にユーラシア特許庁長官に審判請求を行うことができる(規則53(8))。

無効審判制度

ユーラシア特許庁による無効審判の制度は無い。
締約国において、ユーラシア特許の効力から生じた紛争は、その国の国内裁判所又は他の管轄機関により解決され、決定はその締約国の領域内においてのみ効力を有する(条約13条(1))。
いずれの締約国でも、当該締約国の国内裁判所又はその他の所管当局は、当該締約国の公用語によるユーラシア特許の翻訳文を提出することを原告に請求することができる(規則15)。
ユーラシア特許が部分的に無効にされた場合は、その法的地位の変動は、ユーラシア特許の対応する限定の形式で公告される(規則54(2))。

特許権成立後の訂正

特許権者は、一部のクレームを削除することにより、また、マーカッシュ形式の択一的特徴のうちの一部の特徴を削除することにより、ユーラシア特許を限定するための請求をユーラシア特許庁に提出することができる(規則55(2))。
ユーラシア特許の限定の請求は、ユーラシア特許庁が異議申立を取り扱っている期間を除き、特許存続期間中はいつでも、また、締約国のすべて又は一部において、提出することができる(規則55(3))。
特許権者は、ユーラシア特許の明白な誤りの訂正をユーラシア特許庁に請求することができる(規則57(1))。

小特許/実用新案制度の有無

なし。

その他

PCTルートの場合の特例 

ユーラシア特許庁の広域段階への移行期限は、優先日から31か月である(規則71(1))。
移行の際の出願料金の納付期限は、優先日から31か月である(規則71(1))。この期間は、追加手数料の納付を条件として2か月延長可能である(規則71(3))。
国際出願のロシア語による翻訳文の提出期限は、優先日から31か月である(規則71(1))。この期間は、無条件で2か月延長可能であり、追加手数料の納付を条件として更に2か月延長可能である(規則71(3),規則21の1(6))。
出願審査請求の期限は、国際事務局による国際調査報告の公開日から6か月(条約15条(5),規則70)、又は、優先日から31か月(規則71(1))のいずれか遅い日である。この期間は、追加手数料の納付を条件として2か月延長可能である(規則71(3))。
出願人は、ユーラシア特許庁による審査の最初の2か月間、追加手数料を納付せずに出願を補正し、訂正することができる(規則71(5))。