特許請求の範囲の記載について
特許請求の範囲は、一般に、上位概念で記載するなど、できるだけ広く記載するように言われています。
例えば特許入門セミナーなどでは、六角鉛筆の例が挙げられ、六角形に限定されないように多角形と記載するのがよいとか、楕円などの非円形や、突起があるもの、重心が片寄っているものなども含めるように記載したり、発明の対象を鉛筆に限定せず筆記用具とするのがよいと説明されることが多いと思います。
一方、広く記載しようとして、例えば突起がある筆記用具などと記載すると、クリップ付ボールペンのような公知技術が含まれてしまうかも知れません。
もちろん、公知技術が調査等で確実に把握されている場合には、その公知技術だけを除外することを考慮できるかも知れませんが、調査の精度などによっては、必要十分な限定を加えるのは必ずしも容易ではありません。
ここで、特許権の独占権的機能の観点で見てみると、権利範囲(特許発明の技術的範囲)は必ずしも広くなくてもよいとする考え方もあります。
例えば六角鉛筆の例ですと、もし、出願人が鉛筆の製造に特化している企業で、将来的な事業展開などを考えても鉛筆以外の事業を展開する可能性は皆無であるような場合には、鉛筆以外を含むように権利範囲が広くなくても、事業への影響はないとも考えられます。
また、理論的には多角形であれば円形よりも転がりにくいと言えるとしても、程度問題で、ほとんど円形に近いような多角形で、現実的に商品価値として転がりにくい効果は認められず、他社が実施することが想定されないようなものであれば、権利範囲に含まれなくても、やはり事業への影響はないか少ないとも考えられます。
もちろん、上記の例のように、単に「多角形」「筆記用具」と表現するだけでよければ、ことさら上記のような考慮は不要かも知れませんが、例えば複雑な表現が必要となったり明確に表現することが困難であるような場合などでは、敢えて権利範囲が広くなることが絶対的に有利とは限らないと言える場合もあると思います。
また、権利範囲を広く記載しないことによって権利範囲から外れるような構成であっても、それを実施した場合に、例えば性能が劣ったりコストが高くついたりして現実的に商品価値がないものしか得られず、他社が敢えてそのような商品を製造販売することが想定できないような場合には、やはり、形式的には権利範囲が広くても、事業への影響はないとも考えられます。
もっとも、例えば性能は劣っても圧倒的にコストを抑えることができるような製品が考えられる場合などには、そのような製品は排除できるように権利範囲を確保する必要があるとも考えられるので、見極めが必要です。
一般的には、特許請求の範囲を広く記載することが有効な場合が多いと思いますが、闇雲に広く記載しても事業に有利になるとは限らない場合もあります。
したがって、事業の実状や将来の展望、業界や他社の動向などを考慮して特許請求の範囲を記載することが、有効な権利範囲を確保しつつ、特許性も担保するために有用かと考えます。
お申し込み
以下のお申し込みフォームからお申し込みください
後日受講案内をお送りいたします