商標裁判例
結合商標の類否判断において分離観察が許容され、本件商標と引用商標が類似であるという拒絶審決が取り消された事例 。
(原告)株式会社ケー・ジー・アイ v. (被告)特許庁長官
審決取消請求事件
背景
原告は、以下に示す本件商標の商標登録出願をした。特許庁は、本件商標は、以下に示す引用商標と類似していると認定し、拒絶査定をした。
原告は、上記拒絶査定につき、拒絶査定不服審判(以下「本件審判」という。)の請求をした。特許庁は、同請求について審理し、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。なお、本件商標及び引用商標は、いずれも指定商品に「被服」を含み、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とが同一又は類似であることについては争いがない。
結論
知的財産高等裁判所は、本件審決の判断に誤りがあるとして、原告の請求を容認して、本件審決を取り消した。
裁判所の判断
裁判所は、本願商標と引用商標の類否判断において、全体観察により、「引用商標の「遊」の文字の有無の違いに対応して、外観、称呼、観念のいずれにおいても両者は大きく異なり、類似性を肯定することはできない」と判断した。更に、「引用商標の「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分を分離観察の上、「遊」の部分を要部として類否判断をした場合に、本願商標との類似性が認められない」と判断した。裁判所は、分離観察について、以下のように述べている。
商標法4条1項11号に係る商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、①その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支的な印象を与えるものと認められる場合や、②それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合、③商標の外観等に照らし、商標全体としての構成上の一体性が希薄で、取引者、需要者がこれを分離して理解・把握し、その一部を略称等として認識する結果、当該構成部分が独立した出所識別標識としての機能を果たすと考えられる場合などを除き、許されないというべきである。
なお、上記③で例示する場合においては、分離された各構成部分の全てが当然に要部(分離・抽出して類否判断を行うことが許される構成部分)となるものではないことに留意が必要である。
上記③を参考に、引用商標における分離観察の可否及び要部認定について検討する。引用商標は、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分からなる結合商標である。引用商標の各構成部分を比較すると、文字の大きさの違いによる「遊」の文字部分の圧倒的な存在感、書体の違いによる訴求力の差、全体構成における配置から自ずと導かれる主従関係性、といった要素を指摘することができる。引用商標は、称呼及び観念において一連一体の文字商標と理解すべき根拠も見出せない。引用商標に接した取引者又は需要者は、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分を分離して理解・把握し、中心的な構成要素として強い存在感と訴求力を発揮する「遊」の文字部分を略称等として認識し、これを独立した出所識別標識として理解することもあり得る。
他方、「VENTURE」の文字部分は、商標全体の構成の中で明らかに存在感が希薄であり、従たる構成部分という印象を拭えない。取引者又は需要者が、「VENTURE」の文字部分に着目し、これを引用商標の略称等として認識するということは、常識的に考え難い。したがって、「VENTURE」の文字部分を引用商標の要部と認定することはできない。
まとめ
審決や判決において、結合商標の分離観察が許される類型として、上記①②が挙げられることがほとんどだが、本判決では③が例示された点で興味深い判例である。③の類型を参考とした結合商標の要部認定の検討において、文字の大きさの違いによる存在感の違い、書体の違いによる訴求力の差、商標の略称等として認識されるか否か、全体構成における配置から導かれる主従関係性といった判断要素が示された。
これらの判断要素は、結合商標である引用商標の一部との類似性により拒絶された場合の主張の際に参考になり得る。しかしながら、審査段階では、本件のように結合商標である先登録商標の一部と類似する後願商標は、ほとんどの場合拒絶される傾向にあるため、審判で争うことを視野に入れて出願に臨むことが必要であると考えられる。
[1] 2023(行ケ)10063(知的財産高等裁判所、2023年11月30日)