商標裁判例
「Nepal Tiger」の文字を標準文字で表してなる本願商標は、商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当しないとして、拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決を取り消した事例1 。
また、関連件として、「Tibet Tiger」の文字を標準文字で表してなる商標について、商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するものと判断され、拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決に対する取消請求が棄却された事例 についても紹介する。
原告:X v. 被告:特許庁長官
審決取消請求事件
背景
原告は、「Nepal Tiger」の文字を標準文字で表してなり、指定商品を第27類「じゅうたん、敷物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除く。)とする商標(以下「本願商標1」という)について、商標登録出願(商願2021-102626)をした。また、「Tibet Tiger」の文字を標準文字で表してなり、指定商品を本願商標1と同一とする商標(以下「本願商標2」という)について、商標登録出願(商願2021-123161)をした。本願商標1及び本願商標2は、いずれも商標法3条13号 及び同法4条1項16号 に該当するとして拒絶査定を受けた。原告は、これを不服として、拒絶査定不服審判を請求したが認められず、拒絶審決を受けた。
本件は、原告が審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に出訴した事案である。
結論
[本願商標1について]
知的財産高等裁判所は、本願商標1が商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当しないとして、審決を取り消した。
[本願商標2について]
知的財産高等裁判所は、本願商標2が商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するとして、原告の請求を棄却した。
裁判所の判断
[本願商標1について]
特許庁は以下のように判断した。
チベットやネパールは、じゅうたんの生産地及び販売地として世界的に知られており、チベット民族によって手織りされているじゅうたんを「チベットじゅうたん」と称しており、「チベットじゅうたん」はネパールでも生産及び販売されている。トラの図柄を描いた「チベットじゅうたん」は、生産地及び販売地の地域を表す「Tibetan(チベタン)」、「Tibet(チベット)」と、トラを意味する「Tiger」を組み合わせて「Tibetan Tiger(Rug)」、「チベットタイガー(カーペット)」などと称されていることが認められる。これらの事情を考慮すれば、本願商標1を「ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いたじゅうたん」に使用するときは、これに接する取引者、需要者は、単に商品の産地、販売地又は品質を表示したものと理解するにとどまり、自他商品の識別標識とは認識しないから、本願商標1は商標法3条1項3号に該当し、上記商品以外の「じゅうたん」に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから、同法4条1項16号に該当する。
しかしながら、裁判所は以下のように判断した。
出願に係る商標が、その指定商品について商品の産地、販売地又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、審決がされた時点において、当該商標が当該商品との関係で商品の産地、販売又は品質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に、将来を含め、商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認識されるものであるか否かによって判断すべきである。そして、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に商品の産地、販売地又は品質を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構成やその指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである。
被告が証拠として提出した記事等には「Nepal Tiger」又は「ネパールタイガー」との記載は存在せず、その他本願の指定商品に関連するウェブサイト等の記載において「Nepal Tiger」又は「ネパールタイガー」の文字が一体として用いられたものがあるとも認められないから、「Nepal Tiger」の語句が、一体として「ネパールで生産された、トラの図柄を描いたじゅうたん」を意味するものとして、じゅうたんの取引者等によって使用されている取引の実情が存在するとは認められない。
また、「Nepal Tiger」の語句は、一体として組み合わされた一種の造語とみるのが相当である。
以上によれば、本願商標の取引者及び需要者は、「Nepal Tiger」の語句について、「ネパールで生産又は販売される、トラの図柄を描いたじゅうたん」を表示するものであると必ずしも認識しないから、商標法3条1項3号に該当するとは認められない。
本願商標が特定の商品の産地、販売地又は品質を表示するものであるとはいえないから、本願商標がその指定商品のうち上記商品以外に対して使用された場合であっても、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標とはいえず、商標法4条1項16号に該当するものとは認められない。
[本願商標2について]
裁判所は以下のように判断した。
証拠によれば、ウェブサイト上では、本願の指定商品中の「じゅうたん」との関係において、チベットやネパールはじゅうたんの生産地及び販売地として知られており、じゅうたんはチベット民族の伝統的な手工芸品であるとされ、チベット民族やネパールに在住しているチベット難民によって手織りされているじゅうたんは「チベットじゅうたん」と称され、世界4大じゅうたんの一つに数えられ、丈夫で耐久性に優れているなどと紹介されている。
また、同様にウェブサイト等では、本願の指定商品中の「じゅうたん」との関係において、トラ柄又はトラの図柄等を表す語として「Tiger」又は「タイガー」の文字が使用されており、「チベットじゅうたん」の中でも、トラのモチーフは格の高い文様といわれ、トラの図柄を描いた「チベットじゅうたん」は、生産地及び販売地の地域を表す語(チベタン〔Tibetan〕、チベット〔Tibet〕)と、トラを意味する「Tiger」とを組み合わせて「Tibetan Tiger(Rug)」、又は「チベットタイガー(カーペット)」などと称されて多数販売されている。
上記のような取引の実情を踏まえると、「Tibet Tiger」の文字よりなる本願商標をその指定商品中、トラの図柄のチベットじゅうたん等に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、単に商品の産地又は販売地であるチベット、あるいはトラの図柄といった品質を表示したものと理解するにとどまるというべきである。
以上によれば、本願商標は商標法3条1項3号に該当し、同条2項の適用は認められず、同法4条1項16号にも該当するから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
まとめ
国名や地名を含む商標は、商標法3条1項3号や同法4条1項16号に該当するおそれがある。「Nepal Tiger」及び「Tibet Tiger」について、特許庁は、商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当すると判断したが、裁判所は、当該商標の構成とその指定商品に関する取引の実情を考慮し、「Nepal Tiger」については該当しないと判断した。
このように、国名や地名を含む商標であっても、「商標の構成」や「指定商品に関する取引の実情」が考慮された上で、商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当しないと判断されることもある。しかしながら、特許庁は国名を含む商標については特に慎重に判断しているように思われるので注意が必要である。
国名や地名を含む商標を出願するに際しては、「商標の構成」及び「指定商品に関する取引の実情」を確認し、商品の品質誤認等を生じないかどうかを十分に検討しなければならない。そして、商標の使用において差し支えない場合は、品質誤認を生じないよう、指定商品として「(国名や地名)を産地又は販売地とする(指定商品名)」等の記載をしておくことが推奨される。
1令和5年(行ケ)第10115号 知的財産高等裁判所、令和6年4月11日判決
2令和5年(行ケ)第10116号 知的財産高等裁判所、令和6年2月28日判決
3その商品の産地、販売地、品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は、商標登録を受けることができない。
4商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標については、商標登録を受けることができない。