特許庁、特許権等の回復申請状況を公表
1.イントロダクション
2023年4月1日より期限徒過により消滅した特許権等の回復要件が「正当な理由がある」から「故意によるものではないこと」に緩和された。これにより、手続期間を徒過したことにより消滅した権利を回復できる機会が増えた。この緩和により権利を回復できる手続には、「外国語書面出願の翻訳文」「パリ条約の例による優先権主張」「出願審査の請求」「特許料の追納による特許権の回復」等がある。
これらの手続の中でも、申請の認否によって権利の存続と消滅が分かれる「特許権等の回復」については、第三者への影響が大きい。そのため、特許庁は、特許権等の回復申請状況を公表することとし、2025年5月12日に第1回目の公表を行った。この公表では、2025年4月1日以降に受理した案件について公表がされ、今後は1カ月に1回の頻度で更新される予定である。
そこで、今回は、第1回公表分の特許権等の回復申請の状況を分析するとともに、特許権等の回復の概要について再度紹介する。
2.特許権等の回復申請の状況
今回の公表では、全部で37件の申請が報告された。内訳は、特許権は22件(59%)、実用新案権は1件(3%)、意匠権は4件(11%)、商標権は10件(27%)であった。特許権に関する申請が一番多く、次に商標権が多かった。
申請のあった特許権について、6月4日時点における権利の存続状況を確認すると、存続となっていた権利は16件(73%)、消滅が維持されている権利は6件(27%)であった。消滅が維持されている権利も随時更新されることを考慮すると、消滅から存続に変更される権利は増えると予想される。これより、申請のあった特許権の多くが回復していることが分かる。
さらに、申請のあった特許権の権利者を確認すると、権利者が日本企業又は日本人の権利は10件(45%)、権利者が外国企業の権利は12件(55%)だった。これより、外国企業も積極的に特許権の回復申請を行っていることが分かる。
3.特許権等の回復申請の概要
(3-1)申請が可能な期間
申請の手続は、手続ができるようになった日から2カ月以内にすることができる。言い換えると、期限が過ぎたことに気づいた日から2カ月以内にできる。ただし、期限を過ぎてから1年以内(商標権の場合は6カ月以内)に申請をしなければならない。つまり、いつまでも申請ができるというものではない点に注意が必要である。
(3-2)申請の手続
申請には、「回復理由書」を特許庁に提出する。この回復理由書には、主に「所定の期間内に手続をすることができなかった理由」と「手続をすることができるようになった日」を記載する。
「所定の期間内に手続をすることができなかった理由」には、期限を過ぎた原因と経緯を記載する。特許庁が公表するサンプルには、「不注意により期限を失念」したと記載されている。また「手続をすることができるようになった日」には、通常は期限を過ぎたことに気づいた日を記載する。
(3-3)手数料
回復申請には、特許庁に対し一定の手数料を支払う必要がある。なお、特許の場合、請求項の数にかかわらず、一律の金額を支払う。
特許 | 212,100円 |
実用新案 | 21,800円 |
意匠 | 24,500円 |
商標 | 86,400円 |
(3-4)申請可否の判断
回復理由書が提出されると、この書類に記載の理由に基づいて、特許庁が権利の回復の可否を判断する。ここで、故意によって手続をせずに期限を過ぎたことを理由に申請された場合は、回復が認められない可能性がある点に注意が必要である。例えば、期限を過ぎる前に出願人等が手続をしないと判断した場合である。具体的には、金銭的事情による経緯判断や、期間徒過後の社内の方針転換が挙げられる。
4.まとめ
今回は、特許権等の回復申請の状況についての分析結果を報告した。申請が一番多かった特許権については、外国企業も積極的にこの制度を活用していることがわかった。また、今後、申請状況が随時更新されるようになったことから、自社製品の実施や出願の検討にあたって、有益な情報が得られる機会が増えたといえる。
従来、日本では他国に比べて、期限徒過により消滅した特許権等の回復要件が厳しく、回復が認められることは少なかった。それに対し、今回の要件緩和によって消滅した権利を回復できる機会が増えたことは、権利者にとって喜ばしい。一方で、この申請には一定の手数料を支払う必要があり、その金額は決して安くない。したがって、無駄な費用を発生させないためにも、従来通り、期限を徒過しないことが大前提である。とはいえ、期限を徒過する可能性はある。そのような場合に備えて、本制度を把握しておくことは有用であり、非常時には本制度の存在を思い出していただきたい。
引用元:https://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/kaifuku_shinsei.html
