情報提供制度の概要と留意事項
1.イントロダクション
特許出願に対する第三者からの情報提供制度は、出願された発明の新規性・進歩性等に関する情報を、審査官に提供することができる制度である。今年、特許庁は情報提供制度のマニュアル(手引)とその要点(虎の巻)を公開した。今月号では、情報提供制度の概要と留意事項について紹介する。
2.情報提供制度の概要
2-1.情報提供をできる者
誰でも可。匿名でも、費用負担なく情報提供が可能。
2-2.情報提供の対象となる拒絶理由
新規事項の追加(第17条の2第3項)、発明該当性又は産業上の利用可能性(第29条第1項柱書)、新規性(特許法第29条第1項)、進歩性(同第29条第2項)、拡大先願(第29条の2)、先願(第39条)、実施可能要件(第36条第4項第1号)、先行技術文献情報開示要件(第36条第4項第2号)、サポート要件・明確性要件・簡潔性要件(第36条第6項第1号~第3号)、原文新規事項(第36条の2第2項)。
※発明の単一性(第37条)や冒認出願(第49条第7号)など、一部の拒絶理由については情報提供の対象外。
2-3.提出可能な資料(刊行物等)
特許出願の明細書、特許請求の範囲、図面の写し、書籍の写し、製品カタログ、標準・規格関連文書、講演・説明会等において説明されたことを示す講演用原稿、インターネット上の情報をプリントアウトしたもの、実験報告書など。
※動画を記録したDVD-Rは提出できないが、動画の内容を説明した文書にキャプチャ画像を添付したものは提出可能。
※インターネット等に掲載された情報は、情報の取得先のURL情報だけではなく、内容をプリントアウトしたものも提出が必要。プリントアウトには、その情報の内容、掲載日時の表示とともに、情報の取得先のURL、情報に関する問合せ先を掲載する。
2-4.採用率
提出された情報は必ず採用されるとは限らないが、近年、拒絶理由が通知された案件のうち提供された情報が利用された割合(採用率)は約7割。
2-5.出願人への通知
情報提供があったときは、その事実と情報提供日が出願人に通知されます。提供された情報の内容は、閲覧請求をすると原則誰でも閲覧することができる。
3.留意事項
3-1.提出のタイミング
情報提供はいつでも可能だが、審査官が審査に着手する前に提出された情報のみが審査に考慮される。そのため、早く情報提供することが好ましいが、審査請求前に情報提供を行った場合、その特許出願の出願人に、その発明の権利化を警戒している第三者の存在を知らせることになり、審査請求を行うきっかけを与えてしまう可能性がある。そのため、情報提供は審査請求された後に、できるだけ早く行うことが好ましいと考えられる。情報提供は審査が開始される2-3か月前までに行うことが推奨される。
審査請求された特許出願については、審査着手予定時期や審査着手後の進捗状況を特許庁に問い合わせることが可能。ただし、問い合わせができるのは以下のいずれかに該当する者に限られる。出願人またはその代理人、出願審査請求人(他人請求人を含む)、既に情報提供を行った者、仮専用実施権者または仮通常実施権者。
※匿名で情報提供を行った場合は、情報提供者であることの確認ができないため、問い合わせを行うことはできない。
3-2.情報の内容は簡潔かつ明確にすること
「提出の理由」は、簡潔かつ論理的に記載することが望まれる。また、対比表を用いたり、添付する刊行物等においては参照箇所に目印を設ける等、審査官にとって理解しやすい資料とすることが推奨される。
3-3.審査官への連絡は不可であること
情報提供者は出願の当事者ではないため、審査官と連絡を取ったり、提供した情報に関して説明を行ったりすることはできない。
4.まとめ
情報提供制度は、庁費用がかからないことや匿名での提供が可能である点で、特許異議申立制度や特許無効審判制度よりも利用しやすい制度と言える。採用率が約7割であることからも、この制度が他者の発明の権利化を阻止する手段として有効であると言える。しかしながら、情報提供があったことは出願人に通知されるため、その発明が第三者にとって重要であることを出願人に気付かせることになり、出願人はより強固な権利とするために対策を講じる可能性がある。また、情報提供者は、情報の内容について審査官に説明や意見をすることはできない。これらのメリット及びデメリットを考慮した上で、戦略的に情報提供制度を活用することが重要である。
(出典)
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/johotekyo/document/index/tebiki.pdf https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/johotekyo/document/index/toranomaki.pdf
