商標裁判例
「Jimny Fan」の欧文字と「ジムニーファン」の片仮名を2段に書してなる本願商標は、商標法第4条第1項第11号及び第15号に該当するものとは認められないとして、拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決を取り消した事例。
原告:エスエスシー出版有限会社 v. 被告:特許庁長官1
審決取消請求事件
背景
原告は、「Jimny Fan」の欧文字と「ジムニーファン」の片仮名を2段に書してなり、指定商品を第16類「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」(以下「本願商品」という)とする商標(以下「本願商標」という)について商標登録出願(商願2023-3854)をしたところ、スズキ社の引用商標1(登録第6214256号)及び引用商標2(登録第6623643号)との関係で商標法4条第1項第11号 及び第15号 に該当するとして拒絶査定を受けた。原告は、これを不服として、拒絶査定不服審判を請求したが認められず、拒絶審決を受けた。
本件は、原告が審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に出訴した事案である。
結論
知的財産高等裁判所は、本願商標が商標法第4条第1項第11号及び第15号に該当しないとして、審決を取り消した。
裁判所の判断
特許庁は、①本願商標は、その構成中の「Jimny」の欧文字及び「ジムニー」の片仮名が強く支配的な印象を与えるものであり、これを本願商標の要部として抽出して商標の類否を判断すると、引用商標1(「Jimny」の外観、「ジムニー」の称呼及び「スズキ社のオフロード車の名称」の観念)及び引用商標2(「JIMNY」の欧文字と「ジムニー」の片仮名の外観、「ジムニー」の称呼及び「スズキ社のオフロード車の名称」の観念)と類似する商標であるから、商標法第4条第1項第11号に該当する、②仮に、同号に該当しないとしても、本願商標は周知のJimny商標(スズキ社のオフロード車の名称を表示するもの)と外観が類似し、「ジムニー」の称呼及び「スズキ社のオフロード車の名称」の観念を共通にすることから、互いに紛らわしい商標であり、取引者・需要者は、その商品がスズキ社あるいは同社と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、出所について混同を生ずるおそれがあるから、商標法第4条第1項第15号に該当するとして、原告(審判請求人)による審判請求を不成立とする審決をした。
本判決は、原告代表者に対する本人尋問を行って本願商品についての取引の実情を認定した上で、以下の通り、本願商標は商標法第4条第1項第11号及び第15号のいずれにも該当しないとして、原告の請求を認容し、審決を取り消した。
本願商標は、その外観上、「Jimny」及び「ジムニー」の部分と「Fan」及び「ファン」の部分を分離して観察する根拠はない。Jimny商標がスズキ社の製造販売するオフロード車の名称を表示するものとして広く知られていたとしても、本願商品の取引の実情に鑑みれば、本願商標を使用した本願商品に接した取引者・需要者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系列ディーラー等がその情報雑誌の発行主体となっていると認識するとは考え難い。
そして、本願商標の全体観察を前提に引用商標との比較をすると、引用商標1及び引用商標2のいずれも、本願商標の構成部分である「Fan」及び「ファン」に相当する構成を欠いており、本願商標と引用商標1及び引用商標2とは、商標全体としての外観、称呼及び観念が異なっているから、類似性を肯定することはできず、本願商標は商標法第4条第1項第11号に該当しない。
本願商品は、第16類「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」という極めてニッチな商品であるところ、スズキ社を含む自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて、「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」を発行している事実はなく、また、本願商標を使用した本願商品に接した取引者・需要者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系列ディーラー等が発行主体となっていると認識するとも考え難い。
さらには、スズキ社は、原告が本願商標の構成と同じ題名の本件雑誌を10年以上にわたって発行していることを知悉しながら、Jimny商標との関係での誤認混同を生じさせるといった警告、クレームを原告に伝えたことがないばかりか、原告に広告料を支払って本件雑誌にジムニーの広告を掲載するなどして本件雑誌の発行を援助している。
以上の事実関係に原告代表者の供述を総合すると、スズキ社がJimny商標の下で展開する業務としては、オフロード車(ジムニー)そのものにとどまらない関連グッズ、付随サービスを含み得るものではあるが、「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」に係る業務は、スズキ社又はその系列ディーラー等とは直接関係のない第三者によって提供されているのが実情であり、スズキ社とは抵触関係に立たない「棲み分け」が成立していると認められる。
本願商標を本願商品に使用したとしても、スズキ社のJimny商標に係る商品との混同を生ずるおそれは認められないというべきであり、本願商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
まとめ
今回のような事例に今後遭遇した場合、引用商標に係る先行商標権者と友好関係にあるという条件付きであるが、2024年4月1日に施行されたコンセント制度を利用するのが有効であると考える。
コンセント制度を利用すると、商標法第4条第1項第11号に該当する商標であっても、先行商標権者の同意が得られており、かつ、先行商標権者の商品と混同を生ずるおそれがない場合は、商標登録が認められる(商標法第4条第4項)。
この制度を利用する場合には、先行商標権者の承諾書、及び、両商標の間で混同を生ずるおそれがないことを証明する書類の提出が必要となる。後者の「混同を生ずるおそれがないことを証明する書類」の提出に際して、上で挙げたような事情を説明することによって、出願商標が、商標法第4条第1項第11号に該当しないことのみならず、商標法第4条第1項第15号に該当しないことも、併せて主張できるだろう。
[1]令和6年(行ケ)第10007号 知的財産高等裁判所、令和6年8月5日判決
[2]当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品又はこれらに類似する商品について使用をするものについては、商標登録を受けることができない。
[3]他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標については、商標登録を受けることができない。