商標法におけるコンセント制度の導入
1.イントロダクション
2024年4月1日に施行されたコンセント制度に係る改正商標法の規定(第4条第4項)について紹介する。
2.制度概要
商標法では、商標登録出願が、他人の登録商標(先行商標)と同一又は類似の商標であって、その登録商標に係る指定商品・役務と同一又は類似の商品・役務について使用するものである場合、商標登録を認めないと規定されている(商標法第4条第1項第11号)。
コンセント制度の導入により、商標法第4条第1項第11号に該当する商標であっても、先行商標権利者の同意が得られており、かつ、先行商標権利者の商品・役務と混同を生ずるおそれがない場合は、登録が認められることとなった(商標法第4条第4項)。
この制度を利用する場合、先行登録商標権者の承諾書、及び、両商標の間で混同を生ずるおそれがないことを証明する書類の提出が必要となる。当該書類が提出されたときは、審査官は、両商標に関する具体的な事情を考慮して、混同を生ずるおそれの有無を判断する。
■「混同を生ずるおそれがない」について
「混同を生ずるおそれがない」に該当するか否かは、例えば、下記の①から⑧のような、両商標に関する具体的な事情を総合的に考慮して判断される。なお、引用商標と同一の商標であって、同一の指定商品又は指定役務について使用するものは、原則として混同を生ずるおそれが高いものと判断される。
① 両商標の類似性の程度
② 商標の周知度
③ 商標が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか
④ 商標がハウスマークであるか
⑤ 企業における多角経営の可能性
⑥ 商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
⑦ 商品等の需要者の共通性
⑧ 商標の使用態様その他取引の実情
「⑧商標の使用態様その他取引の実情」としては、例えば、次のような事項が考えられる。出願人から具体的な商標の使用態様その他取引の実情を明らかにする証拠の提出がある場合は、その内容を考慮する。
a. 使用する商標の構成
(例)結合商標の構成要素である図形と文字を常に同じ位置関係で使用していること
b. 商標の使用方法
(例)商品の包装の特定の位置にのみ使用していること
常に社名・社章等の他の標章を併用していること
c. 使用する商品等
(例)一方は引用商標を指定商品「コンピュータプログラム」の中で商品「ゲーム用コンピュータプログラム」にのみ使用し、他方は出願商標を商品「医療用コンピュータプログラム」にのみ使用していること
d. 販売・提供方法
(例)一方は小売店等で不特定多数に販売し、他方は個別営業による受注生産のみを行っていること
e. 販売・提供の時季
(例)一方は春季のみ販売し、他方は秋季のみ販売していること
f. 販売・提供地域
(例)一方は北海道の店舗でのみ販売し、他方は沖縄県の店舗でのみ販売していること
g. 混同を防止するために当事者間でとることとされた措置
(例)両商標に混同を生ずるおそれを認めたときは、相手方にその旨を通知し、協議の上、混同の防止又は解消のための措置をとること
3.まとめ
第4条第1項第11号の拒絶理由解消法の1つとしてアサインバック[1]があるが、手続きが煩雑であることや、在外者にとって馴染みがないという問題があった。コンセント制度は、アサインバックと比較してより簡便・低廉な選択肢となると期待する声もあるが、承諾書の取得や混同を生ずるおそれがないことを証明するために時間やコストを要することも考えられる。また、コンセント制度を利用すれば必ず登録されるわけではなく、混同を生ずるおそれがないことが審査において認められない限り登録されない。これらを考慮すれば、出願人はアサインバックの方が確実であると考えることもあり得る。個別の事情に応じて様々であるが、コンセント制度を含め複数の選択肢を提案し、出願人にとって最も好ましい方法を検討することが必要であると考えられる。
■出典
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/consent/index.html
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/kijun/document/index/29_4-4.pdf
[1] 商標登録出願人の名義を、一時的に引用商標権者の名義に変更することで、引用商標権者と新たに出願する出願人の名義を一致させて本規定に基づく拒絶理由を解消し、商標登録を得た上で、引用商標権者から元の商標登録出願人に再度名義変更を行う手法