意匠裁判例
関連意匠における物品の類似性と部分意匠の位置・大きさ・範囲
チュニック、スカート及びパンツの編み目模様が問題となった事例¹
(原告)株式会社三宅デザイン事務所 v. (被告)特許庁長官
審決取消請求事件
背景
キーワード:関連意匠、部分意匠、物品の類似、用途及び機能、位置・大きさ・範囲、変化する意匠、美感。
原告(株式会社三宅デザイン事務所)が、意匠に係る物品を「チュニック」とする登録意匠(意匠登録第1722780号:以下、「本件登録意匠」という)を本意匠とし、意匠に係る物品を「スカート」及び「パンツ」とする二つの部分意匠について、関連意匠として意匠登録出願(意願2021-21208、意願2021-21209:以下2件の出願をまとめて「本願意匠」という)をした事例である。
本件登録意匠は、伸縮性のある素材からなるチュニックの一部について、非着用時から着用時への変化の態様を含めて登録を受けた意匠である。本願意匠も、伸縮性のある素材からなるスカート又はパンツの一部について、非着用時から着用時への変化の態様を含めて登録を求めるものであった。
関連意匠制度は、一つのデザインコンセプトから複数のバリエーションの意匠が生じた場合に、そのデザイン群全体を権利者が適切に保護できるように設けられた制度である。この制度により、権利者は、基本となる意匠だけでなく、それと共通する美感を有する派生的な意匠についても、一定の要件の下で保護を受けることができる。もっとも、関連意匠制度は、権利者にデザイン群全体の保護を認める制度である一方で、すべてのバリエーションを当然に保護するものではない。
関連意匠として登録されるためには、単に模様や形状が似ているだけでは足りず、物品、意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能、位置・大きさ・範囲、並びに形状等を総合して、本意匠に類似するといえる必要がある。
本件では、いずれの意匠にも、ジグザグの編み目模様をほぼ等間隔に形成した部分が存在した。また、非着用時から着用時への変化において、縦方向の長さを保ちつつ、横方向のみ縮むという特徴も共通していた。一方で、物品は、本意匠がチュニックであるのに対し、本願意匠はスカート及びパンツであった。
問題点及び裁判所の判断
本件の争点は、「スカート」「パンツ」に係る本願意匠が、「チュニック」に係る本件登録意匠に類似し、関連意匠として登録を受けることができるか否かである。特に、(1)物品の相違、(2)物品の部分の用途及び機能、並びに(3)部分の位置、大きさ及び範囲の相違を、どのように評価するかが問題となった。
原告は、いずれも被服であり、身体を装うという目的を共通にするため、物品は類似すると主張した。また、原告は、各本願部分と本意匠部分との間には、位置、大きさ及び範囲に若干の相違があるものの、いずれも正面の中央上方部分に広く位置するため、その相違は軽微であると主張した。
これに対し、知的財産高等裁判所は、原告の請求をいずれも棄却した。すなわち、本願意匠は、関連意匠として登録を受けることができないとした。
裁判所は、「スカート」「パンツ」と「チュニック」とは、いずれも被服であるとしても、用途及び機能が類似しないと判断した。その上で、意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能、位置、大きさ及び範囲も相違し、それらの相違が形状等の相違に影響を与えていると判断した。具体的に、裁判所は、ジグザグの編み目模様などの共通点を考慮しても、需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通するとはいえないとした。
<本願登録意匠(抜粋)>


<本願意匠(抜粋)>
意願2021-021208 意願2021-021209


裁判所の判断
裁判所は、まず物品の用途及び機能を検討した。スカートは、腹部と脚を通して下半身にはく筒状の下衣である。これに対し、チュニックは、胴体と腕を通して上半身に着る丈が長めの上衣である。裁判所は、着用部位と使用態様の違いから、スカートとチュニックの用途及び機能は類似しないと判断した。同様に、パンツは、股下で二つに分かれ、足を片方ずつ覆う下衣であるため、チュニックとは用途及び機能が類似しないとした。被服という大きなカテゴリーが共通していても、意匠法上の物品の類似を直ちに肯定することはできない、という判断である。
次に、裁判所は、意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能を検討した。スカート及びパンツの部分は、腹部を覆う用途及び機能を有する部分である。これに対し、本意匠部分は、チュニックの前身頃の一部であり、胸部を覆う用途及び機能を有する部分である。裁判所は、この相違が、スカート、ズボンと、チュニックという物品の構造による影響によるものと認定している。また、物品の違いが、着用時と非着用時の変化態様及び模様の見え方に影響していることを、類否判断上重要な事情とした。
裁判所は、以上を総合し、本願意匠と、本件登録意匠とは、意匠に係る物品が類似しないこと、意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲が相違し、それらの相違が形状等の相違に影響を与えていると判断した。意匠登録を受けようとする部分の形状等に共通する点があることを考慮しても、需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通するとはいえず、本願意匠が本件登録意匠に類似すると認めることはできない、と結論づけている。
まとめ
本件は、関連意匠の判断において、意匠の形状等の類似だけでなく、物品の類似が重要な要素になることを示している。特に、部分意匠では、物品全体の用途及び機能に加えて、意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能も検討される。外国の実務家にとっては、日本の関連意匠制度が、単なるデザイン・バリエーションの広い保護制度ではない点に注意すべきである。
また、本件は、物品の機能の考え方について実務上参考になる。裁判所は、被服という広い目的ではなく、上半身に着るものか、下半身にはくものか、腹部を覆う部分か、胸部を覆う部分かという具体的な用途及び機能を見ている。したがって、出願人は、関連意匠を検討する際、共通するデザインコンセプトだけでなく、物品及び部分の機能を具体的に説明できるかを確認すべきである。
部分意匠の位置、大きさ及び範囲についても、本件は慎重な検討を求めている。過去の事例から、位置、大きさ及び範囲が一定程度異なっても、関連意匠として登録される場合も十分にあり得る。一方で、本件判決は、その相違が物品の構造に由来し、形状等や美感に影響する場合には、許容範囲を超えることがあると示している。本件は、シリーズデザインを日本で保護する際、関連意匠の利用可能性と限界を判断する上での有益な事例と考える。
¹ 2025 (Gyo-Ke) 10093 / 10094 (Intellectual Property High Court, March 24, 2026)
